風力増強原発10基分に(日経16.2.19)

「風力増強原発10基分に」能力3倍 脱・太陽光偏重へ(日経2016.2.19)

日本で風力発電の導入が加速する。国内首位のユーラスエナジーホールディングス(HD)と同2位のJパワーがそれぞれ2020年までに600億円規模を投資する。国内全体の風力発電能力は現在の3倍、原子力発電設備10基分に増える見通しだ。政府は現在の太陽光偏重の是正に動いており、温暖化ガス削減の国際枠組み「パリ協定」で掲げた目標の達成に向け、風力も再生可能エネルギー活用の新たな柱になりそうだ。

ユーラスは豊田通商と東京電力の共同出資会社。ユーラスとJパワーの風力発電能力を合計すると国内の33%(14年度、日経推計)になる。ユーラスは20年までに計20万キロワット分の風力発電所を新設し、能力を85万キロワットに拡大する。年内に秋田県由利本荘市で4万キロワット級の発電所を着工、高知県大豊町でも開発計画がある。Jパワーも能力を20万キロワット増強し計60万キロワットにする。北海道せたな町や愛媛県宇和島市に発電所を新設する。

政府は温暖化ガス削減目標実現のため、発電量全体に占める再生エネ(水力除く)の比率を現在の3%から30年度に15%程度にする計画だ。
風力発電の稼働率は太陽光の約2倍で効率的に電気を得られる。海上でも発電できる。地熱ほど立地の制約がなく、バイオマス発電のように燃料の木材を確保する必要もない。だが国際エネルギー機関(IEA)によると日本の風力発電の割合は0.5%(14年)と欧米諸国や中国より低い。

大型風力発電所の建設には12年に国の環境影響評価(環境アセスメント)が義務付けられ、手続きに4~5年かかるため新規導入が停滞していた。同年に再生エネの固定価格買い取り制度が始まったが、同制度で認定された発電設備のうち建設が容易な太陽光が約8千万キロワットと93%を占め、風力は3%にとどまる。

ユーラスやJパワーは環境影響評価が完了した開発計画を順次実施に移す。日本風力発電協会の推計では15年末に304万キロワットだった導入量は、アセスの進捗などで20年ごろに1千万キロワットに膨らむ。政府も大規模太陽光発電所(メガソーラー)からの買い取り価格を引き下げる一方、大型風力の価格は据え置くなど、導入を後押ししている。

海外勢も動き出す。米風力発電大手パターンエナジーは日本の合弁会社を通じ、20年までに国内で計100万キロワットの建設を計画する。青森県つがる市で国内最大の12万6千キロワットの発電所の着工を準備している。
4月から電力小売りに参入する新電力の中には、環境負荷が低い再生エネの電気を販売するプランを設ける動きもある。安定供給ができる発電規模を持つ風力事業者はこうした新たな需要も取り込みやすくなる。

▼新規の風力発電計画
2020年までに運転開始予定の主な発電所
・ 北海道せたな町 5万kw Jパワー
・ 北海道伊達市 3万4千kw ユーラスエナジーHD
・ 青森県つがる市 12万6千kw グリーンパワーインベストメント
・ 静岡県掛川市 1万5千kw 日本風力開発
・ 島根県浜田市 4万8千kw SBエナジーなど

▼パリ協定
昨年12月の第21回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP21)で採択された温暖化防止の国際枠組み。参加国・地域がそれぞれ目標を策定し温暖化ガス排出量を削減する。日本は2030年度までに13年度比26%減らす。

▼きょうのことば「風力発電」 洋上設置 日本でも始動
風の力で風車を回し、回転する運動のエネルギーを発電機で電気に変える発電方式。発電時に二酸化炭素(CO2)などの温暖化ガスを排出しないうえ、エネルギー源が枯渇する心配がないため世界各地で導入が進む。世界風力会議(GWEC)によると、世界の風力発電能力は2015年末で4億3242万キロワットに上る。

世界最大の風力発電能力を持つのは中国で計1億4510万キロワット。歴史的には欧州で導入が先行しており、国内の電力需要のうち、風力をもとにした電気の割合も高い。デンマークは4割弱、スペインやアイルランドが約2割、ドイツは1割を風力で賄う。

欧州では陸上で徐々に風力発電の適地が少なくなったことから洋上に風車を設置する「洋上風力発電」の新設が盛んだ。周辺住民への騒音の影響がほとんどないため風車を大型化し複数並べることができる。北海などで計1100万キロワット以上が実用化されている。日本国内でも福島沖などで実証実験が始まったほか。茨城県や新潟県沖などで計画が持ち上がっている。

▼電力需要に占める風力発電の割合(2014年)
日本は風力発電の比率が低い
デンマーク 39.1%
ドイツ 9.6%
アメリカ 4.4%
中国 2.8%
日本 0.5%

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